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Selfishly

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金猫の恩返し act2 寝床の確保


Repaying the kindness of golden cat
         act2~寝床の確保1~

「ご苦労様でした。 お気をつけて、お帰り下さい」

ロイは司令部の表玄関の階段下まで降りて、車中の人物に深々と礼をしながら
誠意を滲ませた言葉を相手に伝える。
が、相手はロイの誠意など、はなっから必要なかったのか、
言葉の最後が届く頃には、大きな音を立ててドアを閉めると、
会釈1つ返さないまま、走り出す車と共に去っていった。

司令部の門からその車の姿が見えなくなるまで、ロイは深々と礼をした姿勢を示し、
そして・・・。

「ふぅー、やっと帰って行ったか、煩方様も」

と晴れ晴れとした表情で、う~んと背伸びをしては凝っていた身体を解す。

「でも、思ったより早かったっすね、帰って行くのが」

付き添いのハボックも、先ほどまでとは雰囲気がコロリと変わり、
くだけた様子で、不思議そうに話しかけてくる。

「ああ。なに、最近お薦めの遊び場を知らせといたから、
 さっさと仕事は切り上げて、そちらで時間を使うつもりなんだろ」

「ああ、なるほど・・・」

納得と言うように、頷きながら返してくる言葉には、
双方に対する呆れも混じっている雰囲気だ。
査定に来て仕事を切り上げ遊びに走る上も上なら、
追い返すために、情報をリークする自分の上司も上司だ。
が、居座られても、何の益もない相手だったから、ハボック達に嫌も無い。

「さて」
そう呟いて動き出す上司が、ロスした時間を取り戻すために司令室に引き返すと思いきや。

「ちょ、ちょっと、大佐、どこに行くんですか!?」

中には戻らす、さっさと玄関を回り込むように歩き出した上司に、
ハボックが驚いたように、慌てて声をかけてくる。

「このまま戻っても、気分が悪すぎて仕事をする気にならないさ。
 ちょっと気分転換をしてから戻る事にする」

ヒラヒラと後ろでに手を振り、裏庭へと歩き去る上司に、ハボックも追いすがるように
足を進めようとした矢先。

「お前も一服して来い。 終わる頃には私も戻ってるだろう」

要は付いてこなくて良いと告げてくる。
暫し悩むが、査察もどきにやってきた上のおかげで、ハボックも禁煙を
余儀なくされていた状態だったのだ。
共犯者まがいの行動にはなるが、上司からお許しが得れたとなれば、
無性に唇がムズムズと疼き出す。

そして、選択に悩んでいる間にも上司は足を止める事もなく、
門を曲がって姿を消していた。

残されたハボックは、ガリガリと頭を掻きながら、
肩を竦めて、司令部内に入っていく。
『まっ、ちょっと位はいっか。 どうせ、マジで逃走するには、
 今日は仕事が溜まり過ぎてるもんな』
と心の中で言い訳をしながら、いそいそと司令部内の喫煙スペースへと歩き出した。


淡い光りが降り注ぎ、春の到来が近い事を知らせるような日だ。
ロイは、のんびりと敷地内を散策している。
本来なら、街へと繰り出して、本当のリフレッシュを計りたいところだが、
如何せん、下らない話に付き合わされて、本日の業務が手付かずのままだ。
さすがにその状態で逃亡を図れば、捕まった後にどんな目に合うかが想像できて、
二の足を踏んでしまう。 残念だが、今日は大人しく敷地を廻ったら戻るしかないだろう。
と、少々意気消沈気味に歩いていると、前方に見慣れた相手を発見する。

まぁ、見慣れたとは少々言葉に御幣があるかも知れない。
年間ですれば、逢うのは数回程度の相手だが、1度知れば
決して忘れられない相手なのだ。

「戻って来ていたのか・・・」

軽い驚きは当然の事だろう。 何せ彼らは出て行けば数ヶ月は姿を現さないのが常なのだ。
前回見かけてから、まだ1月ほどしか経っていないはずなのだから。

無骨な姿を見せながらも、じゃれつく子犬を相手している態度は、
優しげで、思いやり深気な動きで、慎重に丁寧な動きをしている。

「アルフォンス君」

呼びかけてみると、振り返るなり立ち上がり、きっちりと礼をしてくる。

「あっ大佐、お久しぶりです! ご散歩ですか?」

見かけとは違う可愛らしい声のギャップにも、慣れているロイは
別段、驚く事もない。

「ああ、久しぶりだねと言いたいが、珍しい事もあるもんだな、
 君ら、最近出たばかりだろう?」

そのロイの質問に、アルフォンスが少々困ったように首を傾げ、
「はぁ、まぁ」と歯切れの悪い相槌で返してくる。

「・・・鋼のはどうしたんだ? 姿が見えないが?」

それも珍しい事だった。 常にワンセットで動いているとばかり思っていたから、
てっきりロイの視界に入らない所にでも、居るのだろうと思っていたが、
見渡しても影も形も見えない。 いくら小柄な彼とはいえ、さすがにこの至近距離で
見落とすほどは小さくはないだろう。

「あっ、兄さんなら資料室に籠もってます。
 僕はその間、ここで待たせて貰ってるんです」

「資料室に? 鋼一人でかい?」

「えっ、ええ・・・」

おかしな事もあるものだと思う。 特別閲覧なら、さすがに弟は連れては入れないが、
通常資料室位なら、身内扱いのアルフォンスにも入る事は許してある。
特別閲覧室に入るには、いかにエドワードが国家錬金術師と言えども
ロイからの許可書が必要だ。 しかも、今日は渡していないのだし・・・。

「何かあったのかい?」

聞いていいのか迷う所だが、こうして所在無さげにいる相手を見てしまえば、
聞かないのも悪い気がして、思わず問いかけてしまっていた。

「いえ・・・、何かあったのならまだ良いんですけど、何にもないから
 兄さんも焦っちゃって」

途方にくれた声音で告げられた言葉に、ロイは短く「そうか」とだけしか
返せなかった。 彼らが求めているものは、途方が無さ過ぎて、力を貸すにも限度がある。
ロイとて、一応気を配ってはいるが、ものがもの、事が事だけあって、
そうそう芳しい情報が舞い込んで来る筈も無い。

「まぁ、余り焦らずに、気長に取り組みなさい」

と、そんなありきたりの言葉しかかけてやりようがない。

「はい、僕もそう言ってるんです。 
 まぁでも、兄さん。 最近、少々根を詰めすぎだったんで、こっちで
 少しゆっくりと出来ればいいかなっと」

気を取り直したように、明るめに告げられた返事に、ロイも頷いて、去る合図に
軽く手を上げて歩き出す。

「あっ・・・、そう言えば大佐!
 この前はありがとうございました」

背後から掛けられた言葉に、怪訝に思って振り向く。

「この前、兄さん、大佐の家に泊めて貰ったんですよね?
 本当にありがとうございました。 
 ちゃんとお礼を言うようにって言って有ったんですけど、
 言ってましたか?」

「ああ・・・、そのことか。
 大丈夫だ、ちゃんと礼を言いにきたよ。
 そんなに対した事をしたわけでも無いんだから、
 気を使わなくても構わないよ」

苦笑交じりの返事に、アルフォンスはいいえと呟きながら首を横に振る。

「いえ、本当に安心したんで、僕。
 ・・・兄さん、時たまフラリと姿を消しちゃう事があって、
 大抵は、その変の公園とか、街角で一晩過ごしてるようなんで、
 危ないからって反対してたんです。
 でも、この前は大佐の家に泊めてもらってたって言ってたから、
 僕、本当にほっとしたんです。 あの日は雨で寒かったし・・・」

その言葉に、その時のエドワードの姿が、ロイの脳裏に呼び戻され浮かんでくる。
土気色に悴んでいた唇に、まともに動かないまで凍えていた身体。
全てを拒否し、全てから逃げるように蹲って、身を隠していた彼。

ロイにしてみれば、玄関先に捨てられていた子猫を、軒下に入れてやった程度の事しかしていない。
余り偉そうに礼を言われる立場でもないのだ。

「対した事はしてないから」と再度気にしないで良いと告げると、
気恥ずかしさでサッサとその場を離れていく。

『なんだ・・・。鋼のは、弟には話すんだな』

ロイはあの晩の事は誰にも、それこそ本人にも話したり、蒸し返したりもしなかった。
・・・何となく、誰にも言わないほうが良いかと思っていたからだ。
なのにエドワードは、ごく普通に弟には話していたのだと思うと、
妙に不条理な気がしてしまう。
何がと言われれば、これと言うわけではないのだが・・・。

馬鹿らしい考えを振り切るように、軽く頭を振り、先ほどと違って、
今度は足早に、戻る為に歩いていった。

Repaying the kindness of golden cat
         act2~寝床の確保2~


足早に司令室に戻ってみると、玄関先で別れたハボックが戻っており、
居心地悪げにロイの方に視線を送ってくる。
それには素知らぬ顔で流して、胡乱そうな瞳を向けている副官の
ホークアイに戻った事を伝える。

「やあ、今戻ったよ」

「ご苦労様です。 
 玄関からの距離が、これほど遠いとは知りませんでした。
 今後、建物の構造を考え直さなくてはなりませんね」

冷たい揶揄の言葉も、もう慣れ切っていて、この程度では堪えない。

「そうだね。 が、外敵の侵入を考慮するなら
 玄関から遠く、奥まっているのは理想だと思わないかい?」

軽く笑いながらそう答えると、綺麗な副官が米神を抑えながら
小さく1~2度、頭を横に振っている。

「そうだ、鋼のが帰ってきてるしょうじゃないか?」

何かお小言を言われる前に話しを切り替える。
この優秀な副官は、仕事には文句をつけれる点もなくパーフェクトで、
容姿も、ロイの厳しい審美感からも満点なのだが、
如何せん、付け入る隙もない点が難点だ。
そんな彼女が隙を見せるのは、決まってエルリック兄弟の時だけなので、
さっさと話の矛先を変えておく事にする。

「えっ、ああ、そうなんですよ。
 今回はあまり良い情報がないようで、一時こちらで情報収集するつもりらしいんです」

そんな事を語りながら、頬が僅かに緩んでいるのが、
珍しい彼女の微笑みだ。
彼女の鉄面皮な表情が緩むのは、愛犬の時かエルリック兄弟の時か
そのどちらかだけだろうと、密かに噂されている。

「そうなのか。 まぁ、焦ってばかりでも良いことはないから、
 少しは休養を兼ねて、ゆっくりする事も必要だろう」

「ええ、本当にその通りです。
 いくらエドワード君が頑張り屋でも、無理と無茶は違いますから。

 が、大佐にはもう少しエドワード君を見習って頂かねばなりませんね。
 取りあえず、これが本日中の溜まっている書類ですので」

と、予め隠しておいたのでは?不審に思うほどの大量の書類が、
ドサリ・・・そう本当に音と振動がロイのデスクから伝わってくる。
瞬間、ヒクリと頬の筋肉が引き攣り、暑くも無いのにタラリと汗が伝ってきた。

「こ、これは・・・いくらなんでも多すぎやしないかい?
 査察に付き合っていた時間に、まさかこれだけ溜まるわけはないだろ?」

「はい、溜まった分ですが?
 先ほど、少将がお帰りの際に、査察の査定書の作成も頼むとのお達しでしたから」

「査定書の作成・・・なるほどね」

はぁーと深く大きなため息が出る。
折角、早めに追い出そうと、少将の好きそうな遊び場所をリークしたと言うのに、
お土産まで置いて遊ぼうとするとは・・・、少々誤算だ。

「わかった」

渋々ながらそう返して、ロイは座ったばかりの席から立ち上がる。

「大佐? どちらにお出かけになるおつもりですか?」

出かけるなどとんでもないと言うように、ロイのデスクから扉までの場所を立ち位置に決め
仁王立ちしてくるホークアイに、ロイは苦笑しながら。

「どこにも行かないさ。 ただ、鋼のに挨拶がてら、
 特別閲覧許可書だけ渡して、すぐ戻ってくる」

「そうですか・・・。
 宜しくお願いします」

数瞬の間、逡巡する様子を見せたが、さすがにエルリック兄弟には甘い彼女だった。
ロイの言葉に、退路から除けて道を開けてくれた。

「ああ、すぐに戻ってくる。
 そうでないと、今夜も泊り込みになりかねないからな」

お忍びの査定などと、意味のわからぬ理由で急遽やってくる事にした少将閣下が
ご連絡をくれたのは、これまた計ったように、昨日の終了間際だった為、
昨日は全員、泊まりこみの体勢で本日に備えていたのだ。

皆の、頼みますよ~の懇願の眼差しが痛い中、ロイはそれでも
しばし逃避に走って、部屋を出て行く。



一般の資料室までの距離は、さしてない。
資料室の使用頻度の高い司令室が、近いのは当然なのだから。
ロイは、短かった逃避の時間を惜しむように扉の取っ手に手をかける。
どれだけ音を立てようが、気にする事も無い。
今の捜し人は、集中しているときは、外部には全く無関心になる人間なのだから。
どうせいつもの所定位置にいるのだろうと、ロイは奥まった錬金術関連の資料があるコーナーへと
足早に進んでいく。
どうせ本に小柄な身体を埋めるように居るのだろう相手を、どのように気づかせるかと
思考しながら、様子を窺うと・・・。
瞬間、足が止まった。

確かに・・・確かに、いつもの場所にエドワードは居た、居たが。

所狭しと置かれた資料たちのその向こうで、ぼんやりと小さな高窓を見上げている彼がいた。
本棚に背を持たせかけ、両手は頭の後ろで組んでいる。
何をしているわけでも、眠っているわけでもない。
ただ、じっと窓を・・・いや、きっと窓から見える空を、見上げているのだ。
なんとなく、ロイにはそう思えた。

いつもの勝気そうな瞳が、妙に燻って見えるのは光線の加減なのだろうか?
常にロイを見据えるように、きつい輝きを見せていた瞳が、
今はぼんやりとした光りしか宿していない。

「鋼の」

そんなエドワードの様子に、ロイは何故かしら胸騒ぎを感じ、
思わず銘を呼びかけてみる。

が、そんなロイの心情には構い無く、エドワードは変わらずぼんやりと空を見上げたままだ。

「鋼の!」

思わずといったように、ロイは気づいたら、エドワードの肩に手を置いて、
相手を揺さぶるようにして、その銘を呼ぶ。

「わっ!! なんだ?
 な、なんだよ・・・大佐? 大佐かよぉー」

驚いたと言うように、ロイを見上げる瞳は、いつものエドワードのものだ。
それに、思わずホッとしながら、今の自分の行動を誤魔化すように
エドワードをからかう言葉を吐きだしてしまう。

「大佐かよ?じゃないだろうが。
 君は本を読んでるときだけじゃなく、常日頃から周囲に気を回し無さ過ぎるんじゃないのかい?
 全く・・・こんなにぼんやりさんでは、アルフォンス君も大変だ」

わざとらしくため息混じりに、そんな言葉を告げれば、
エドワードがムキになって言い返してくる。

「そ、そんなんじゃない!
 ちょっと・・・そうちょっと気になる構築式が浮かんだんで
 考えてたんだよ! 
 あ~あ、せっかくの前代未聞の偉大な式が、大佐のせいでおじゃんだぜ」

膨れ面を見せながら、減らず口を叩いてくるいつものエドワードの様子に
ロイは、心ならずも安堵感を浮かべる。

「そうかいそれは申し訳ない事をしたね。
 そんな偉大な方には、これは必要ないかな?」

取り出した用意していた許可書を覗かせれば、エドワードの瞳がキラリと輝き、
飛びつかんばかりの勢いで立ち上がっては、ロイに手を指し示す。

「くれ!」

自分を見下ろして、踏ん反り返りながら手を出す様子に、
ロイは呆れたように、嘆息する。

『全く・・・私の思い違いだな。
 
 彼が・・・、そう彼が、過去に囚われ、戻って見えたなんて』


催促を繰り返すように振られる手に、許可書と鍵を手渡してやる。

「戻るときには、必ず鍵を私に戻しに来るように。
 勝手に閉めて帰らないでくれたまえよ」

「わぁーてるって。
 大丈夫、大丈夫」

うきうきとロイの手渡した物を手に、すでに周囲を片付け始め、
心はここに無さそうな上の空の返答を、どこまで信じていいのやら。
更に深いため息を、相手に見せ付けるように付いて、
ロイはその場を立ち去る。
どうせエドワードの事だ。 すでに、ロイの事など眼中にもないだろう。
そして、その通り。 エドワードはロイが立ち去って行こうとしている間も、
挨拶1つ返しもしなかったのだから。

そんなエドワードの態度に、今更目くじらを立てても仕方ないとばかり、
ロイもさっさと退出する。 そして、廊下を出たてから、自分の焦りがなへんから出たものかに気づく。

そう。 過去の彼のようだったのだ。 
最初で最後・・・あんな彼を見たのは1度しかない。
瞳に何も映さず、関心も持たず。 殻に閉じこもったままの彼の、あの時の様子に
さっき見たエドワードがダブって見えたなんて・・・ただの思い過ごしなのだ。

軽く頭を振り。自分の見たものを払拭させながら、ロイは自分の居場所に戻っていく。


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